【ライヴ評】The Stone Roses @ Heaton Park, Manchester(01.07.2012)
ストーン・ローゼズが2012年にマンチェスターのヒートン・パークで再結成ライヴをした時のライヴ評です。初出は今は亡きMUSIC TIMESというサイト。加筆修正済み。
昨今の再結成ブームの中、もっとも再結成とは程遠いと思われていたバンドが帰ってきた。そう、〈フジロック・フェスティヴァル ‘12〉初日のヘッドライナーを務めるストーン・ローゼズである。
なぜ彼らの再結成が、これほどまでの驚きをもって迎えられたのか? フロントマンのイアン・ブラウンとギタリストのジョン・スクワイアの長年に渡る確執も、その理由のひとつとして挙げられるだろう。だが何より、ローゼズのメンバーは、大金を目の前に釣られて懐メロを演奏する醜態を人前に晒すことを自らに許さない誇り高さを持っていると人々が信じていたからこそ、再結成は「ありえない」と思われていた。
それが昨年、マニの母親の葬式でイアンとジョンが和解とのニュースを英国メディアが報道。間もなくして、ローゼズの再結成も電撃的に発表された。その一連の流れからも分かる通り、今回の再結成は、「友情の修復による美しい復活」という側面が強調されている。しかし、仮に友情が復活したとしても、時代を塗り替えたローゼズのマジックまで復活するとは限らない。最悪のパターンの懐メロ的な再結成になっているかもしれない。おそらく、ほとんどの人はライヴを観るまで大きな不安を抱えたままだろう。
だが、2012年6月29日から7月1日にかけて、ローゼズの地元、マンチェスターはヒートン・パークにて開催された巨大ライヴを目撃してきた私は断言しておこう。今回の再結成ライヴは、あらゆる不安を吹き飛ばし、期待を遥かに超える素晴らしい体験を約束するものだと。
1日につき7万5000人を動員し、3日間で延べ22万5000人が集まったヒートン・パーク公演。同じく3日間行われる〈フジロック〉が約12万人、イギリス最高峰のフェス〈グラストンベリー〉が約14万人を毎年動員していることを考えれば、その人数の凄まじさを実感できるはずだ。
実際、ローゼズを観に来た人がマンチェスターに大挙して押し寄せたため、ライヴ当日の3日間、街はローゼズ一色のお祭り騒ぎだった。通りにはローゼズTシャツを着た人が溢れ、初期ローゼズを撮影していたイアン・ティルトンもマンチェスター駅近くで写真展を開催。レコード・ショップにはローゼズのメモラビリアが誇らしげにディスプレイされ、繁華街では大道芸人までもがローゼズの曲を歌っていた。
会場となったヒートン・パークは巨大な公園で、入口からライヴのステージまで徒歩で約10~15分。青々と茂った芝生がどこまでも広がる美しい丘を超えていくと、フジロックで一番大きなグリーン・ステージの倍はあろうかというアリーナに到着する。
プランBなどのオープニング・アクトが終わり、夜9時を過ぎるとシュープリームスの“ストーンド・ラヴ”に乗ってローゼズの4人がステージに登場。もちろん1曲目は、かつてと同じように“アイ・ワナ・ビー・アドアード”だ。待ちに待った瞬間の到来に、オーディエンスは早くも大合唱(歌のメロディだけではなく、ギターのフレーズやベースラインも一緒に歌う)。正直、最初は周囲の大声に掻き消されて、演奏があまり聴こえなかった。しかし、客席から沸き上がる歓喜のフィーリングに包まれていると、それさえも最高の瞬間に変わってしまう。
ライヴ前半は、初期シングルの表題曲やシングルのカップリング曲、そして歴史的な名盤である1stアルバム『ザ・ストーン・ローゼズ』でも大人しめの曲が続く。だが、決して地味な印象はない。1stの頃よりもブルーズ色強めで鳴らされるジョンの凄まじく饒舌なギター、フロア・タムとキックを多用するレニのしなやかだがボトムの効いたドラム、そしてその二人に呼吸を合わせて歌うように奏でられるマニのベースが織り成す圧倒的なグルーヴに、終始興奮させられっぱなしだ。
中盤のハイライトは、間違いなく“フールズ・ゴールド”。ほとんど神業と言っていいレニのドラム・ソロに圧倒されたかと思えば、今度は自分の独壇場だとばかりにジョンがオリジナルにはない強烈な新フレーズをガンガンと弾き倒す。“ドライヴィング・サウス”やビートルズの“デイ・トリッパー”のリフを随所に挟み込む「遊び」も楽しい。1stや2ndの時のライヴ演奏を凌ぐ超絶グルーヴが、そこには確かに創出されていた。
つい楽器奏者3人のプレイに目を奪われがちになってしまうが、もちろんイアン・ブラウンの存在も忘れてはならない。超人的な演奏をする3人に挟まれたイアンは、オーディエンスと一緒にグルーヴに身を任せ、ゆらゆらと体を揺らしながら歌っている。これまでも再三ジャーナリストたちから指摘されてきたように、その姿はオーディエンスの写し鏡のようだ。伝統的なロック・スター像を批判的に捉え、そことの距離の取り方を意識してきたのが「ローゼズ以降」のタームだとすると、ローゼズにおけるイアンは現代性を担保する要であり、今もその重要な役割は変わっていない。
終盤は、“メイド・オブ・ストーン”や“シー・バングス・ザ・ドラムス”、そして“アイ・アム・ザ・レザレクション”といった名曲の連発で、当然の如くオーディエンスは大合唱。そんな中でも、3日間を通して特に素晴らしかったのが“ディス・イズ・ザ・ワン”だった。「This is the one(これなんだ!)」というタイトルが伝える一点の曇りもない確信や絶対的な肯定性が、初期ローゼズのメッセージ性を鋭く体現していることは以前から十分承知していたつもりである。しかし、決して1stの代表曲という位置付けではない“ディス・イズ・ザ・ワン”が、あんなにも祝祭的な一体感で7万5000人を包み込むアンセムとして鳴り響くとは完全に予想外。オリジナル・メンバー4人でのライヴはこれが初体験だった身としては、「ああ、これがローゼズのマジックと呼ばれるものなのか」と感極まらずにはいられなかった。
初日29日のライヴで、イアン・ブラウンは、「As you see, we've still got it(見ての通り、俺たちにはまだ特別な何かがあるんだぜ)」と言った。それは虚勢ではない。驚くべきことに、星の数ほどある悲惨な再結成の事例とは反して、ストーン・ローゼズはそのマジックを失っていなかった。「The past was yours, but the future’s mine(過去はお前のものだけど、未来は俺のものだ)」という“シー・バングス・ザ・ドラムス”の有名な歌詞の一節を、今もなお彼らは体現し続けている。その姿は、厄介なノスタルジーを一瞬で氷解させる美しく感動的なものだ。
setlist
1. I Wanna Be Adored
2. Mersey Paradise
3. (Song for My) Sugar Spun Sister
4. Sally Cinnamon
5. Where Angels Play
6. Shoot You Down
7. Bye Bye Badman
8. Ten Storey Love Song
9. Standing Here
10. Fools Gold
11. Something's Burning
12. Waterfall
13. Don't Stop
14. Love Spreads
15. Made of Stone
16. This Is the One
17. She Bangs the Drums
18. Elizabeth My Dear
19. I Am the Resurrection
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